大富豪により創設された優秀な遺伝子のみを集めた精子バンクに関する本 人よりも良い精子を求めるという優生学見地に立った本書の精子バンクだが 実際の精子バンクはそれよりも進んでおり(第9章)金を積めば積むほど 精子の値踏みができる時代であることを示している. また,天才と言われた父親(精子)の実像や,詐欺とも言える 精子カタログの管理など,事実を明らかにしてゆく. 最後に本当に天才の子供が生まれたかについては,サンプルが 偏っているにせよ,精子の影響よりも環境の影響が強いのではと 結んでいる.本書の救いは,「子供は幸福を運んでくる」ではないが 幸いがキーワードになっているように思えた. 400ページにもわたる分厚い本で,多くが対話記録などで構成する この本は,へたをすると単なるゴシップの醜い集まりになりかねない 所であるが,ちゃんとその裏にある心のヒダまでを伝えようとして いる点で,救いがあり,また根が暗い問題を軽い読み物として まとめている点も良いところでは無いかと思う.
1980年アメリカで一人の実業家が「レポジトリー・フォー・ジャーミナル・チョイス」という精子バンクを設立した。この精子バンクは彼の信じる「積極的優生学」に基づき優れた遺伝子を残す目的で設立された機関だが、設立当初に「すでに3人のノーベル賞受賞者からの精子提供を取り付けており、将来はすべてのノーベル賞受賞者から精子を集めるつもりであること」が宣伝されたため、マスコミによって「ノーベル賞受賞者の精子バンク」というニックネームがつけられたという。 この作品には、優生学の歴史やこの精子バンクの設立者ロバート・K・グラハムの一生などについても書かれているが、中心となるのは、バンクから誕生した子供達がどのような人生を送っているのか、そして「生みの親」であるドナーはどのような人物だったのか、そして彼らの対面はどのような様子だったかを追ったルポである。 ノーベル賞受賞者の精子バンク自体は時代の徒花的な存在だったようであり、実際は受賞者の精子から生まれた子供もいなかったようである。さらに、確かに優れた業績を持つドナーも存在していたが、経歴詐称の胡散臭い人物もいるなど結構怪しげな機関だったようだ。 ドナーの存在を告げられた子供の反応も様々だ。ただ、私自身にその経験がないので子供達の本当の気持ちは理解できない。 しかし、この精子バンクに精子提供を依頼する親が絶えなかったのは理解できるような気がする。これは以前に「ベビー・ビジネス(ランダムハウス講談社)」という作品を読んでいたからなのだが、この作品には不妊に悩む夫婦達の希望に応えようとして開発された様々な科学的・医療的技術が、最終的に、より優れた(自分の望む)子供が欲しいという夫婦の要望に応えるビジネスになっていくという、まさに需要と供給によってのみ成立するアメリカ資本主義社会?の世界が描かれている。